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2006年 2月 13日 重症心身障害児の医療・看護・介護 1.医療の考えかた

1.医療の考えかた


1)重症心身障害にとっての、医療とはなんだろうか? 


 感染症の治療や呼吸不全の治療など、治療的医療があることは当然である。しかし長年重症心身障害児・者をみていると、もうひとつの医療があることに気づく。それは生活を豊かにする、生活を拡大する医療である。人工呼吸器や気管切開 経管栄養をしている人も、活動を楽しめる、外出できる、そういった生活によりそうコンパクトな医療がそのひとつである。

医療が、その人を生活の範囲をベッドに限定するといった否定的側面で語られることもある。しかし重症心身障害の医療や看護でめざすものはあくまで、生活の質をたかめ、豊かにする目的があると思う。


2)生活の具体的過程に働きかける医療


 こういった医療のひとつに、生活の過程にはたきかける医療があると思う。それは、姿勢や摂食、呼吸や栄養へのアプローチがある。重症心身障害の方の姿勢は、いろんなことを考慮され工夫される必要がある。関節に付加がかからない、緊張が強くならない、呼吸が楽にできる、食物が消化管をスムーズに通過していく、痰がスムーズに出やすい、などである。これらの条件がうまく満たされると、利用者の安楽そうな表情や姿としてかえってくる。このすべての条件を満たす姿勢は困難だが、スタッフの共通の目標として立てることができる。さらに、医師との共同の、誤嚥検査や、消化管の通過をみる造影検査、胃食道逆流検査で、その姿勢をとることの医学的妥当さを反映させることが、できる。利用者の生活の具体的場面を、医療、看護という視点で、生命過程に働きかけるという視点で捕らえなおしてアプローチすること、ここに重症心身障害の医療や看護がある。


3)生活・活動を通じての医療的側面


 重症児施設には生活施設の機能がある。楽しみや夢のある活動に向かって、体調をととのえる目標ができる。また充実した生活や活動は意欲を育てて、生命力をつよめる。こうした生活や活動を通して、生命力に働きかけるのも、重症心身障害への広い意味での医療、看護に当たると思う。


4)重症心身障害の医療


 まとめてみると、重症心身障害への医療には以下の4つがある。@治療的医療、A生活に必要な医療ケアを安定的に施行する医療、Bリスクにたいする見守りの医療、C生活過程に働きかけ、機能の維持、改善をはかる医療、D生活、活動を通じて生命力をつよめる医療である。BCDは、表面に見えにくいが、利用者の心身の安定にとても重要な医療の側面である。


5)施設の中の免疫システムとしての医療


 重症心身障害児施設の医療は、人体に対しての免疫システムに似ていると思う。生体に異常が発生した時、早期に局所でくいとめる、常に免疫担当細胞が、見守りを行いながら、病原体が入ってくるのをくいとめる、病原体が侵入した時は、全身の免疫システムが動員され、協力して侵入、増殖をくいとめる。さらに、免疫力がたかまると、生きる意欲がたかまる、逆に充実した生活は、免疫力をたかめる。


6)障害児・者医療の位置づけを制度の中で


 重症心身障害の方の生活の可能性をひろげる免疫システムのような、医療のあり方が、これまで我々の施設では実践されてきたと思うし、今後もますます必要性がましてくると思う。この医療のあり方は、地域で暮らす障害者のかたのセーフテイネットとしても機能するように育てて行く必要がある。自立支援法や診療報酬の改定のなかでもこの生活をひろげる医療の考え方が位置付けられるよう発信していく必要がある。