施設長コラム
施設長コラム
新型コロナ後の生き方を考える
2020-12-18
(3)新型コロナ流行の時代に、紅葉のびわこ学園医療福祉センター草津にマグマ"だいし"(大姉)現れる
三重県在住のIさんが、びわこ学園医療福祉センター草津に訪問された。以前、新聞記事で、僕が、中日新聞の「この人」欄に紹介された記事をみて、「先生が働いている施設を応援したくなった。」といって、職員の働きやすい環境への支援や、新型コロナへの対応の激励の手紙など、応援いただいている方で、それ以来、交流が続いている。今回は、コロナ対応への陣中見舞いと僕の読売医療功労賞の受賞祝いも兼ねて、当センターに立ち寄っていただいた。70代の着物姿がよく似合う、華奢な女性である。
Iさんは、新型コロナの第一波のころ、 この新型コロナ禍での心の持ちようについて、手紙をくださった。「我々の内部に大きなものがあると自覚すると元気になれる」、と記載されていた。「無量寿 無碍光 不可思議光」という、小さな和紙にかかれた手書きの書は、「そのような意味だから、どこかにそっと貼っておいて」と、励ましの手紙に同封されていた。先日、11月、再び訪ねてこられたので、その意味をあらためて尋ねてみた。
「とほうもない大きなもの、宇宙とでもいうべきものが、我々の内部にあるということなの。困難な時代だからこそ、そんな大きな力を感じて生きていってくださいねという私のメッセージなの。 」
この世のすべてのいのちは、とほうもないひろがりとエネルギーを持った宇宙をみんな、一人一人の内側に持っているのよ。宇宙の始まりのエネルギーは、ビッグバンの爆発的膨張にあるの。それが地球の中心のマグマに伝わっていて、いわば、我々はマグマのエネルギーをを内に持っているみたいなものね。」
Iさんはさらに語った。「マグマは、生きるエネルギーでもあるし、そのエネルギーは情念となって、対立や争い、災いも起こしてくるわ。喜びもある反面、悲しみもある。マグマは、時に噴火し、災害を招くこととも似ている。しかしその噴火したマグマも長い時間の結晶として、富士山のような美しい姿で我々の前にそびえたり、暖かい温泉として我々を癒やしてくれる。いのちとは、きれいごとだけではなく、未分化のエネルギーなのよ。喜びも悲しみもあるわ。どんなときも心の中にマグマの力があり、それは、地球の中心でつながっていて、宇宙のビッグバンのエネルギーを源に持っているのよ。そんなことを意識すると、つながり、協力する力になっていく可能性も感じることができるわ。わたしは内面に、マグを感じて生きていこうと思うの、そうするととても元気に生きていけそうな気がするの。」
そういえば、少年時代、マグマ大使というテレビ番組に夢中になっていた。手塚治虫の原作だ。地球の創世者、アース様が作った、ロボット人間マグマ大使が、地球を侵略しようとするゴア一味と戦うというストーリーだった。地球の危機にまもる少年が笛を吹くと、マグマ大使が出動してゴア一味と戦い地球を守るのだ。
Iさんのいう、マグマは宇宙を感じることで、我々の心の中に生まれてくる。「私は、さながら”マグマたいし”ね」とIさんは笑う。」「”たいし”はどう漢字で書くんですか?」と尋ねると、Iさんは「”大姉”(だいし)かな?」 といって笑った。
Iさんから学んだこと、我々ひとりひとり、重症心身障害の方も支援する人たちや家族にも、その内側ににマグマとでもいうべき、原初的な未分化な「いのちのエネルギー」があり、それらは地球の中心のマグマに、そして、それはビッグバンに由来する宇宙のエネルギーにつながっている。困ったとき、危機が訪れたとき、マグマを感じる心の笛を吹くと、我々の心の中に、地球を救うマグマ"だいし"が、現れる。マグマは地球の中心でつながっていて、ひとりひとりがつながることで、宇宙の力を感じながら新型コロナの危機に立ち向かっていく力が生まれてくる。これがIさんのメッセージだ。
びわこ学園の創始者糸賀一雄は、重症心身障害障害を支える人たちは、「地下水になって、重症心身障害一人一人が自ら育つ力を育てることの重要性」を説いた。今このコロナ禍では、「お互いがお互いのマグマを呼び起こし、つながりながら立ち向かっていく」、という力強さも必要なのかもしれない。